東京高等裁判所 昭和43年(う)498号 判決 1968年6月05日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
控訴趣意第二について
所論は、要するに、原判決は、原判示事実につき道路運送法第一五条、第一三〇条三号、第一三二条を適用しているが、右第一三二条は、前条までに行為者を罰する規定があるならば、同時に法人等も罰するという趣旨であるところ、右第一五条は、業者を処罰の対象とし、行為者を罰する規定ではないから、乗車拒否をした運転手に対し、右第一三二条を根拠として右第一五条違反の責任を問うことはできないというべきで、原判決は法令の適用を誤つている、というのである。
よつて按ずるに、道路運送法第一五条が、自動車運送事業者の義務を定め、同法第一三〇条第三号が、右義務に違反した事業主を処罰する規定である、と解すべきことは所論のとおりである。しかし、同法第一三二条は、同条所定の従業者が、法人又は人の業務……に関し……違反行為をしたときは、「行為者を罰する外」……と規定しており、従業者が、法人又は人の業務に関し、右第一三〇条第三号に該当する行為をした場合には、この規定により処罰を免れないものと解するのが相当である。けだし、同条にいわゆる違反行為とは、同条に掲げた各本条の構成要件に該当する行為の意味であり、また、従業者は、右第一五条の義務主体ではないが、業務の遂行に当つては、法律により事業主に課せられた義務を遵守すべきものであつて、資格の点を除き、事業主の違反行為に該当する行為をした従業者を処罰することは、十分合理的な理由のあることであるからである。ただ、右第一三二条が行為者を処罰すべき罰条を表示していないのは、規定の仕方としては妥当を欠く嫌いがないでもないが、同条の規定全体の趣旨に徴すれば、「第百二十八条から前条まで」の各本条の刑に処する趣旨であることが明らかであつて、これがため右第一三二条が刑罰法規として無効であるということはできない。
以上説明のとおりであるから、原判決の法令の適用は正当であつて、論旨は理由がない。
(その余の判決理由は省略する)(脇田忠 関重夫 環直弥)